約 2,304,348 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4585.html
涼宮ハルヒ挙国一致内閣 国務大臣(敬称略) 内閣総理大臣 涼宮ハルヒ 内閣官房長官 古泉一樹 総務大臣 国木田 法務大臣 新川(内閣法制局長官兼務) 外務大臣兼沖縄及び北方対策担当大臣 喜緑江美里 財務大臣兼金融担当大臣 佐々木(内閣総理大臣臨時代理予定者第一位) 文部科学大臣 周防九曜 厚生労働大臣 朝比奈みくる 農林水産大臣 会長 経済産業大臣 鶴屋 国土交通大臣 藤原 環境大臣 谷口 防衛大臣 長門有希 国家公安委員会委員長 森園生 国務大臣以外の主な役職(敬称略) 内閣官房副長官(政務) 橘京子 内閣情報官兼内閣危機管理監兼内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当) 朝倉涼子 内閣広報官 妹 内閣広報室企画官 吉村美代子 内閣総理大臣秘書官(政務担当) 俺 ああ、なんというか、呉越同舟という言葉がぴったりな状況に陥ってしまった経緯については省略しよう。 まあ、要するに未曾有の国難ということで、対立していたSOS党と佐々木党が連立して挙国一致内閣を作ったということだ。 じゃあ、とりあえず、上から順番に説明しようか。 ハルヒが総理大臣なのは、当然だわな。何でも一番が好きなハルヒが二番以下の地位に甘んじるわけもない。SOS党は衆参両議院で第一党だから、その党首が総理大臣に選ばれるのは、普通に考えても当然だしな。 古泉は、どこまでいっても、ハルヒのフォロー役というわけだ。実質、この内閣を取り仕切っているのは、こいつということになる。ご苦労なことだ。 国木田は、総務大臣の役目を飄々とこなしている。昔からできるやつだったし、任せておいて問題はなかろう。 新川さんは、年齢構成が若すぎるこの内閣においては、御意見番的な存在だ。 喜緑さんは、あの薄い微笑で対外交渉をこなし、諸外国からはタフなネゴシエーターとして認識されている。 佐々木のところの括弧書きは、俗にいう「副総理」というやつだ。この国難の中で、財政金融をつかさどるのはかなりの激務だが、よくやってくれている。 九曜に文部科学大臣を任せるのは、日本の将来を担う子供たちのためを思うとおおいに不安なのだが……。教育行政が滞りなく遂行されることを祈るばかりだ。 朝比奈さんは、まさに適役だと思うね。ただ存在しているだけで、国民の福利厚生に絶大なる効果がありそうだ。 会長さん(俺はいまだに彼の本名を知らん。みんな会長って呼ぶしな)は、生徒会長時代に培った実務能力で、農林水産大臣の職務を難なくこなしている。 財界の重鎮である鶴屋さんは、まさに適材適所といったところ。あの明るい振る舞いで、日本の景気も明るくしてくれそうだ。 藤原とは個人的にはそりが合わんが、この国難の中ではそんなこともいってられん。嫌味なやつだが、仕事は真面目にこなす。ただ、協調性が足りないのが問題だわな。国土交通省は防災担当機関でもあるから、いざというときは他省庁との連携が重要なんだがなぁ。 なんで谷口が大臣なんぞになれたのか。まあ、ハルヒの気まぐれなんだろうが。環境行政が停滞しないことを祈る。 長門が防衛大臣を担う限り、日本の国防は安泰だ。ひたすらに頼もしい。ただ、仕事をさっさとすませて、国会図書館によく出没するという噂が絶えない。 森さんは、警察組織のトップ。彼女がにらみをきかせれば、日本の治安は安泰だぜ。一方で、「機関」を通じて裏社会も仕切っているという黒い噂が聞こえてきたりも……。 橘京子は、古泉と一緒に内閣を取り仕切っている。SOS党と佐々木党の呉越同舟状態をうまく切り盛りしていくためには、この二人の連携は非常に重要だ。だから、佐々木を異常なまでに持ち上げて、ハルヒの機嫌を損ねるのはやめてほしいのだが。 朝倉涼子は、内閣官房の中では、古泉、橘に次ぐ相当な実力者である。情報・危機管理・安全保障を一手に握ってるからな。本人は防衛大臣をやりたがってたんだが、暴走して他国に戦争でも吹っかけられたら困るので、裏方に収まった経緯がある。 最近朝比奈さんにそっくりになってきた俺の妹は、内閣広報官。これが意外に天職だったらしく、毎日楽しそうに仕事をしている。 ミヨキチは、妹の補佐役といったところだ。妹と仲良くやっているようで、大変結構なことである。 で、俺はハルヒの秘書官というわけだ。ハルヒに振り回される雑用係というポジションは、どこにいっても変わらないものらしい。まったく、やれやれだ。 首相官邸。 「佐々木さんが、涼宮さんに使われる立場なんてありえないのです。佐々木さんこそが首相にふさわしいのです」 「また蒸し返すんですか、あなたは」 橘京子と古泉一樹が、また口論している。 ここ最近、すっかりお馴染みになってしまった光景で、もはや口をはさもうとする者はいなかった。 「第二党が何をいったって、しょせんは負け惜しみですよ」 「今度の選挙では、必ず勝って見せるのです」 橘京子は、ほおを膨らませて不満顔だ。 「せいぜい、頑張ってください。それよりも、例の件、佐々木党内の取りまとめはしてくれたんでしょうね?」 「もちろんです」 国家公安委員会・警察庁。 森園生は、極秘とスタンプが押された報告書を読んでいた。日本国内を跳梁跋扈する国外の諜報員を「非合法に処理」した記録である。昔はスパイ天国などといわれた日本国であるが、森園生が陣頭指揮をとって対策を進めた結果、状況はだいぶ改善されつつあった。 もう一枚の紙を取り上げる。こちらは何もスタンプは押されてないが、極秘文書には違いなかった。なぜなら、それは「機関」の文書だから。 TFEIの動向。天蓋領域の端末には変化は見られないが、情報統合思念体の端末は増員され、政府組織の中に潜入していた。いつでも政府を乗っ取れる体制でありながら、彼女たちは何もしようとしない。観測任務を第一とする態度は不変である。 現在、政府を乗っ取っている立場である「機関」と橘京子の組織としては、TFEIたちのそのような態度は不気味ですらあった。 政府の国防・外交・危機管理を押さえているTFEIトップスリー、長門有希、喜緑江美里、朝倉涼子ですら、人間レベルでなしうる以上のことをしようとはしていない。そして、そのレベルですら完璧人間に近いのだから、文句のつけようもないのだ。 森園生は、二つの文書を丸めて灰皿に置くとライターで火をつけた。情報流出を防ぐ最も手っ取り早い方法だ。 「宇宙人たちは不干渉ということね。なら、未来人たちはどうかしら……?」 そのつぶやきを耳にした者は、誰もいなかった。 厚生労働省。 真面目に書類仕事をこなしている朝比奈みくるのもとに、藤原がやってきた。 彼は、入ってきた途端に盗聴防止装置を稼動させると、口を開いた。 「あんたは、このまま状況を座視してるつもりか?」 「当然でしょ。介入は許可されてないわ。藤原くんだって同じじゃないかしら?」 「何百万人もの人間が犠牲になるんだぞ。それを黙って見てるつもりか?」 朝比奈みくるは、簡易シミュレーターを取り出し稼動させた。 無数の曲線と数式と記号で構成された光の三次元樹形図が空中に展開される。 「実際、それを阻止しようと思えば、介入しなければならない時点は1249箇所。二人だけじゃ、手に負えないわよ。あからさまな規定事項破壊行為だし、介入が全部終わる前に私たちが始末されちゃうわ」 朝比奈みくるは、簡易シミュレーターをポケットにしまった。 光の樹形図が消え去る。 「あるべき未来を守るためには仕方ないわよ」 「そんな未来なんぞ糞食らえだ」 「藤原くんだって分かってるはずでしょ。私たちはこの悪しき世界を守るために存在する悪党だってことは」 「……」 藤原の顔が渋面を形作る。 「それが嫌なら、未来に帰って組織を抜けることね」 国立国会図書館。 読書にいそしんでいた長門有希のもとに、喜緑江美里と朝倉涼子がやってきた。二人とも半ステルスモード。図書館という空間に同化している長門有希はともかく、二人はこのような場所では目立ちすぎるからだ。 長門有希も、半ステルスモードに移行した。 「大規模な情報操作をしない限り、戦争は不可避。その旨は、既に報告済みである」 「私も同じです」 「私も同じよ。三人とも意見が一致するなんて、つまんないわね」 「情報統合思念体からの指令は、観測の継続。積極的な干渉の禁止、つまりは、不干渉原則の維持である」 「穏健派はしぶしぶ同意したみたいですけどね。戦況が悪化した場合に、涼宮ハルヒの力が暴走して危険を招くことを懸念しているようです」 「その方が情報爆発を観測できていいじゃないの」 朝倉涼子はあっけらかんとそう発言した。 「主流派は、今のところ急進派と同意見。ただし、情報統合思念体に危険が及ぶことになれば、穏健派とともに阻止することになるだろう。むしろ、気になるのは天蓋領域の動向」 「周防九曜は、相変わらずのようです。あちらも、不干渉という点ではこちらと変わらないのではありませんか。むしろ、未来人の方が干渉してくる可能性は高いと思いますけど」 「戦争の発生自体は、彼女たちにとっても規定事項であると思われる。そうでなければ、そろそろ動きがないとおかしい」 経済産業省。 鶴屋大臣は、いろんな方面に電話をかけまくっていた。 「……戦争ともなれば鉄鋼の増産は不可欠だからねっ。……生産ライン増強の補助金? いやぁ、お国の財政が厳しくてねぇ。……あっ、そんなこと言っちゃっていいのかなぁ? あのことをバラしちゃうよっ。……うん、理解してくれて助かるにょろ。じゃあ」 電話を置き、次の話し相手の電話番号を確認する。 「ええっと、次は、○○商事だったかな?」 鶴屋大臣の脅迫電話は、その日一日中続いていたという。 首相官邸。 「ああもう! 今日もくだらない仕事ばっかりだったわね!」 「仕方ないだろ。一国の首相ともなれば避けられない仕事はいくらでもあるさ」 俺は、文句たれるハルヒをなだめる役目だ。この役目は昔から俺のもので、いまだに免れることができてなく、おそらく将来もずっと続くだろうと思われた。 なんたって、俺は、栄えあるSOS党党首殿の夫だからな。今さら免れることは不可能だろうし、その気もない。 「ねぇ、キョン」 ハルヒは俺の背中に手を回して抱きついてきた。 「なんだ?」 「あたし、そろそろ子供ほしい」 「いきなり何言い出すんだ、おまえは」 「いや?」 ハルヒの表情は真剣そのものだった。 「あのなぁ、ハル……」 俺が言いかけた瞬間に、背後から声が降ってきた。 「涼宮内閣腐敗の現場、そんなところだね」 振り向くと、そこには佐々木がいた。 「腐敗といってもこの程度でね。申し訳ない。でも、部屋に入ってくるときはノックぐらいはしてくれよ」 「したよ。ただし、お二人とも自分たちの世界に没頭するあまり、ノックの音を認識することを脳が拒否していたようだけどね」 俺たちは二人して顔を赤くするしかなかった。 「何の用だ?」 「酷い言い方だね。僕は、ここ一週間ほとんど寝ないで、この『戦時財政計画』をまとめていたというのに。ねぎらいの言葉ぐらいほしいところだ」 佐々木は、右手に握っていた分厚い書類を、近くのテーブルの上に無造作に置いた。 「すまん。それはご苦労だったな」 「ありがとう。君にそう言ってもらえると、僕の苦労も報われるというものだ」 何を大げさなと思っていると、背後に寒気を感じて振り向いた。 ハルヒが、剣呑な視線で佐々木をにらんでいる。 「涼宮さん。そんな目でにらまないでよ。別にあなたの夫をとろうなんて思っちゃいないわ。私だって、その辺はわきまえているつもり。キョンは誰にだって優しい人、涼宮さんだって分かってるでしょ?」 「分かってるわよ!」 ハルヒは不機嫌な顔のままだ。 「涼宮さん。お互い、この内閣が続く間だけでも仲良くやりましょう」 ハルヒはしぶしぶ頷いた。 「なあ、佐々木」 「なんだい?」 「この内閣が終わったら、おまえたちはまた野党に戻るのか?」 「当然だよ。キョンだって分かってるはずだ。涼宮さんには、常に張り合える敵役が必要なんだ。今は外敵がいるからいいけど、それがなくなったら、張り合いがなくなる。ならば、その役目は僕が果たそう」 「でも……」 「僕自身も、そういう役回りを結構楽しんでるのでね。おかげで、涼宮さんと出会えてからの人生はとても充実している。では、馬に蹴られないうちに退散するとしよう」 佐々木は去りかけて、再びこちらを向いた。 「キョン。君が愛妻家なのは結構なことだが、自重してくれたまえよ。この未曾有の国難の時期に、首相閣下が産休では、国民に示しがつかない」 俺たちが何かをいう暇すら与えず、佐々木は足早に去っていった。 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1068.html
前線基地に向かうトラックを激しい爆発音が揺さぶる。突入前の準備として、学校の砲撃隊が北山公園の植物園に 120mm迫撃砲による徹底した砲撃を行っているのだ。空気を切り裂くような音が頭上をかすめるたびに 身震いを覚える。あれに当たれば、身体が傷つくどころか粉々に吹っ飛ぶんだろうな。 そんな中、前線基地に到着し、古泉小隊と鶴屋さん小隊の入れ替えが始まる。 「やあっ! キョンくん! また、会えてうれしいよっ! これから一緒にめがっさがんばろうね!」 鶴屋さんのテンションの高さは相変わらずだ。そんな彼女にハルヒも満足げのようである。 てきぱきとしたハルヒの指示により、2分とかからずに入れ替えが完了し、 「さて! いよいよ突入よ! 気を引き締めなさい!」 ハルヒの声が合図となり、またトラックが動き始める。 植物園が近くなるにつれて、爆発音が激しくなってきた。激しい土煙が植物園を覆っている。 その中、俺たちはついに北山公園内の植物園に突入した。同時に砲撃も停止する。 先行するトラックに乗っていたハルヒは一目散にトラックから降りると、 「行け行け行け!」 そう他の連中に降りるように指示を出し、自身はM16を抱えてそこら中めがけて乱射を始める。 ハルヒの配下の生徒たちもそれに習うように、トラックから降り乱射を始めた。辺りに広がる森、建物に向かって。 俺も遅れまいと、次々にトラックから自分の小隊を降ろし始める。鶴屋さんも同様だ。 2~3分だろうか。そのまま、乱射が続いたが、やがてハルヒが右手を挙げた。どうやら、撃ち方やめという意味のようだ。 俺も周りに乱射をやめさせる。ほどなくして、乱射が収まり、辺りに静寂が戻った。しかし、銃声音が頭の中に残って うっとうしいことこの上ない。 「何にもねえな……」 俺は思わず声に出してしまったが、これは予想外だった。当然、激しい抵抗があるものと思っていたが、 すんなりと突入に成功し、さらに敵の一人すらいない。どういうことだ? みんな地面に伏せて銃を構えている中、ハルヒだけは仁王立ちのように突っ立っていた。あのバカ、狙撃されたらどうするんだ。 「国木田。俺はハルヒのところに行ってくる。ここを頼む」 「了解」 俺は国木田の肩を叩くと、前屈みでハルヒの元に走った。同じタイミングで鶴屋さんもやってくる。 「どういうことなの? まるっきり抵抗がないなんて張り合いなさ過ぎ」 「何でも良いから少しは身を低くしろ、おまえは」 そう俺は脳天気なことを言っているハルヒの迷彩服をつかみ、無理矢理屈みさせた。 「さ~て、ハルにゃん、これからどうするにょろ?」 鶴屋さんの問いかけにハルヒは真剣に悩み始める。確かに、これはおかしい。やはり古泉の言うとおり罠だったのか? だが、敵は俺たちに考える余地を与えるつもりはないようだ。数発の爆発音が北高の方から飛んできた。 すぐ近くにいた通信機を持った生徒をハルヒは呼び、 「有希!? 何かあったの!?」 『前回と同じ攻撃を受けた。数発だけで、損害は軽微』 的確な長門の返事にハルヒは安堵した表情を見せる。だが、またすぐに苦渋に満ちた表情に戻り、 「罠だろうが何だろうが、あれの攻撃方法をつぶさない限り、あたしたちに勝ち目はないわ。予定通りに行きましょう。 鶴屋さんはロケット弾発射地点と思われる北山公園南部をお願い。キョンは北側ね。とっとと制圧したら鶴屋さんの援護に 向かうこと! いいわね!」 話し合いはここまでだ。俺は自分の小隊まで戻る。 「よっし、俺の小隊はこれから公園北部に行くぞ。前進しろ」 俺の指示の元、小隊は北部へ移動を開始した。鶴屋さんも南部に移動を始める。とにかく、とっとと北部をつぶして、 鶴屋さんの援護に向かわねばならん。 ◇◇◇◇ 「なあ、キョン」 林の中をじりじりと北部へ移動する最中に谷口が気の弱そうな声で聞いてきた。 「なんで散策用の道をつかわねえんだよ。歩きにくくてたまんねえ」 「おまえは待ち伏せされて、皆殺しにされたいのか?」 そう谷口の意見を一蹴する。北山公園は公園だけあって何本かの道があるが、当然敵がいるなら、 やすやすと通してくれることはないだろう。それに見通しが良すぎて狙い撃ちにされてはたまらん。 そばにいた国木田もあきれたように、 「谷口は結構貧弱なんだね」 「うるせえ。戦争するための訓練なんてやっているわけがねえだろうが。はっきり言ってこれは無駄な浪費だぜ。 あー、この体力をナンパにまわしてぇな」 「おまえが黙れ」 黙々と俺についてくる小隊の中で、ただ一人ピーピー文句を言う谷口を黙らせる。 ただ、薄暗い森の中、おまけにどこに敵が潜んでいるかわからない状況では、谷口の普通っぷりが かえって俺に安堵感を与えているのは事実だ。 と、国木田が突然真剣な目つきで銃を構えた。さらに一斉に周りの生徒たちも構え始める。 呆然としていたのは俺と谷口だけだったが、目の前の木々の隙間に何かがいることに気がつくと、 あわてて構えた。 隠れていたのは、鶴屋さんの行ったとおり真っ黒なシェルエットのような人間?だった。 腰にAKらしき銃を抱えているが、こちらには向けていない。 「おい、キョン……! とっとと撃とうぜ……」 今にも泣き出しそうな声で谷口が言う。どうする? 撃ってしまって良いのか? それとも捕まえるべきか? だが、俺が迷っている間にそいつはとっとと逃げ出しやがった。全力で地面の悪さも気にせず、 一目散に北に向かって失踪する。 「くそ! 逃がすな!」 ミスをしてしまった。偵察兵かもしれないのに、ここで見逃せば俺たちの位置が敵の主力に伝わり、 攻撃されるかもしれない。そうなる前に……! 「キョン、待って!」 国木田の制止も聞かずに、俺は一目散に逃げるシェルエット人間を追いかけ始めた。 小隊全員も俺について走り出す。 逃げる奴は姿が真っ黒というだけで、全く人間と同じような走り方をしていた。 草を手ではねのけ、溝を跳び越え、ばたばたと足音を発しながら逃げていく。 「もう少し……!」 もうちょっと追いついたら、奴を背中から撃ってやる。それで仕留められるはずだ。 だが、先に発砲したのは俺じゃなかった。タンタンと乾いた破裂音の次に、バスっと二度と忘れないんじゃないかという いやな音が背後から飛んできた。俺は立ち止まって振り返ると、そこには通信機を背負っていた阪中が倒れていた。 頭部から出血までしている。撃たれたのは確実だった。 「キョン! まずいよ!」 国木田がそばにいて切迫した声を上げた。前からは逃げていた敵と入れ替わるように、 銃を手にした数人の敵がこっちに向かって来ていた。さらに左右からも銃撃が始まる。 「阪中から無線機を!」 俺は身近にいた生徒に無線機を取るように伝える。阪中がやられた以上、別の誰かに持たせないと―― だが、すぐにその生徒も胸を撃ち抜かれた。血しぶきと肉片が飛び散った光景は当分忘れないだろう。 「おいキョン! どうするんだよ!」 谷口はひたすらおろおろして持っているM60を撃ちもしない。代わりに周りの生徒たちがおのおの敵に向けて反撃を始めた。 俺もそれに続くように迫るシェルエット人間に向けて発砲を始める。だが―― 「だめだ……!」 敵がどんどん増えて、数人どころか数十人にふくれあがったのを見れば、つい絶望もしたくなる。 やはり古泉の言うとおり、鶴屋さん小隊を襲撃した連中はただのおとりで、本隊が北部に陣取ってやがったんだ。 そして、俺たちはまんまと誘い込まれてしまっている。そう考えたとたん、自然と身体が引き返せと悲鳴を上げ始めた。 「後退しよう! 負傷者を連れて行け!」 撃たれて倒れている阪中たちを別の生徒たちが引きずり始めた。俺はそれをカバーするように 迫る敵に向けて撃ちまくる。そのうち一発が敵に命中し、まるで液体が始めるように飛び散って消滅した。 確かに鶴屋さんの言うとおり、まるでゲームの敵を撃ったぐらいの感覚にしかならない。 俺たちはそのまま数十メートル後退する。その間にまた一人の生徒が肩を撃たれた。これで3人目だ。 「下がれ下がれ!」 俺はわめくように指示を出す。だが、今度は二人の生徒が背後から撃たれた。そう背後からだ。間違いない。 なんで俺たちが通ってきた方から銃弾が飛んでくる!? 「後ろにも敵がいるよ!」 「どーするんだよ、囲まれちまっているぞ!」 未だに健在な国木田と谷口が大声を上げた。まずい。やばい。どうすりゃいいんだ!? 「伏せるんだ! みんな、伏せろ!」 思ってもいない声が俺の口から飛び出した。一斉に全生徒が茂みに隠れるように地面に伏せた。 すぐ頭上に弾がヒュンヒュンとかすめていく。もう一歩遅かったら蜂の巣立ったかもしれん。 背面の敵はこっちを狙撃するように動かずに撃ってきているが、前面――北側の敵は遠慮なくつっこんできていた。 このままでは皆殺しにされる。 「谷口! M60をこっちに置け!」 俺の指示に谷口は俺のすぐ横にM60を置いて撃ちまくり始めた。 「このやろ! 死ね! くるんじゃねえ!」 情けない声を上げつつも、突撃してくる敵に次々と命中し、黒い影が飛び散りまくる。 一方、俺の背後では国木田が小隊の背後にいる敵に対処していた。 「手榴弾を投げるよ!」 ピンの抜かれた手榴弾が宙を舞い、背後の敵を吹き飛ばした。同時に銃撃が収まったのをみると、 背後にいた奴は仕留められたらしい。さらに、前面から突撃してきた敵はM60の乱射を恐れたのか、 じりじりとこちらの視界外に引き始めた。何とか急場をしのげたようだな。 だが、国木田はほっとする様子もなく、俺の元に駆け寄って、 「キョン! のんびりしている場合じゃないよ! 第2波が来る前に砲撃の支援要請をしないと!」 くそ、国木田の方が指揮官みたいじゃないか。今からでも変わってくれないか? いや、そんなことはどうでもいい。 俺は引きずられてきてぴくりともしない阪中から無線機を取ると、ハルヒに――いや、そんな暇はない。 長門に直接指示しないと! 「長門! 聞こえるか!」 『聞こえている』 通信機は無事のようだ。俺は胸ポケットから地図を取り出すと、 「今から言う座標に向けて砲撃を頼む!」 俺は俺たち周辺の座標を伝えると、 『わかった。砲撃を開始する』 「ああ、頼む! こっちは包囲されて孤立状態だ!」 通信を終えたときに、ちらりと阪中の目が俺の視界に入った。 地面に突っ伏したまま、けっして瞬きしない。もう死んでいる…… ――あのね、お願いがあるんだけど。 ――涼宮さん、誘ってほしいんだけどね。 ――球技大会。だって、涼宮さん、すごいスポーツ万能じゃない。 前日、あった阪中との会話が脳裏にフラッシュバックしたとたん、俺は胃のものをすべてリバースしてしまいそうになった。 何とかぎりぎりのところで押さえ込んだが、全身に走る悪寒と鳥肌はやみそうになかった。 何を悩んでいる? 俺があのときとっとと逃げる敵を撃っておけばこんなことにはならなかっただろ? でも、これはゲームだ。仕掛けたものの言うとおりに勝てばいいじゃないか。そうすれば元通りさ。 大体、この阪中が俺の知っている阪中とは別人かもしれない。だから、罪悪感なんて持つことはない。 持つことなんてないって言っているだろうが! 「――キョン! 大丈夫!? しっかりして!」 いつの間にやら国木田が俺の肩をさすっていた。全身汗だらけになっていることにも気がつく。気色わりい。 「あ、ああ、大丈夫だ――大丈夫……」 のどからひねり出される俺の言葉を聞けば、誰も大丈夫じゃないとわかるだろう。しっかりしろ、俺! 今までだって、朝倉にナイフで刺されたり、朝倉にナイフでぐりぐりされただろうが! 「ああああっ! キョン、また敵がこっちに近づいてきたぞ!」 谷口の悲鳴とともにまたM60が火を吹き始める。見れば、また懲りもせず前方からシェルエット軍団が 突撃を敢行し始めていた。当然、銃を乱射しながらだ。 しかし、ここで長門のきわめて正確な砲撃が始まった。シャァァァという空気を切り裂くような音とともに、 俺たちの周囲が次々と吹き飛び始める。轟音で耳の鼓膜がはじけそうになった。 「撃ち方やめ! 撃ち方やめ! おい谷口! やめろっていってんだろ! 弾を無駄にするな!」 こっち大火力で突撃して来る敵はほとんど吹き飛び、俺たちのところに到達できる奴は一人もいなかった。 ならば、こっちはしばらく見物していた方が良い。 「今の内に負傷者の手当をするんだ! 残りは残弾の数を数えておけ!」 その間、徹底的な砲撃を受けた敵はさすがに堪えたらしい。次々と北側に引いていくのが確認できた。 頼むからもう来ないでくれよ。 俺はまた長門に――すまん、阪中。また借りるぞ――連絡して砲撃を停止させる。 続いてハルヒに連絡だ。 「おい、ハルヒ聞こえるか?」 『何よ、こんなときに! こっちは大騒ぎよ!』 返ってきたハルヒの声は、植物園がどんな状況かすぐにわかるようなものだった。無線機越しに、 銃声音やら爆発音がひっきりなしに飛び込んでくる。 『敵よ敵! 辺り一面囲まれているわ! 鶴屋さんも同じみたい! 完全にしてやられたわ!』 ああ、また撃たれた! 衛生兵! そっちで怪我した人を見てやって! 古泉くんの部隊はまだ来ないの!?と 俺に向けてではない声も入ってくる。やばい。ハルヒの方も襲撃されているのか。さらに鶴屋さんもだと? 学校まで攻撃されている訳じゃないだろうな? 『それは大丈夫だって有希が言っていたわ! 今のところ、戦闘が起こっているのは北山公園内だけみたい!』 そうか、それなら当面は俺たちだけの問題だ。 「こっちも囲まれて数人がやられたが、長門の砲撃で何とか撃退できたようだ。 あと、鶴屋さんが言っていた20人ぐらいはとっくに倒しているが、まだまだ敵がいそうだ。 これじゃ、いくらやってもきりがないぞ。これからどうすりゃいい?」 『とにかく、古泉くんの言ったとおり罠だったんだから、引き上げるのよ! だから、早く戻ってきなさい!』 明確でわかりやすい。短絡的とも言えるが、今はありがたかった。 俺は国木田と谷口を呼びつけ――なんだかんだでこいつらが一番話しやすい――、 「おい、植物園まで戻るぞ。今すぐにだ。無線機を誰かに持たせないとな」 「負傷者は?」 国木田の言葉に俺は即答する。 「決まっているだろ。引きずってでも連れて行く」 「なら、死んじゃった人は? すでに4人死んでいるよ」 続いて飛んできた質問に俺は息をのんだ。辺りを見回すとけが人5名、死者4名の状態だった。 なら、無事な生徒は残り21人。けが人だけなら運べないこともないだろうが、死者を含めると、 ほとんど運ぶだけで部隊全体がいっぱいいっぱいになる。 俺はもう冷たくなりつつある阪中を見る。そして、 「死んだ奴はおいていく。落ち着いたらあとで戻って回収する。場所はきちんと地図に記してな。 戻ってこれるのかなんていうな。絶対にだ」 俺の声に反論する奴はいなかった。なんて薄情な奴だなんて言わないでくれ。 今は生きている奴を助けるだけで精一杯なんだ。 俺は無線機に向かって、 「ハルヒ。これから俺たちはそっちに戻る。時間はかかるだろうが、努力はするぞ」 『キョン! 戻ってこれそうなの!?』 「わからんが、やれることはやるつもりだ」 できるとは言えなかった。情けない。俺がこんなにだめな奴だったとは、正直ショックだ。 『……キョン。これだけは言っておくわ』 ハルヒの決意じみた声。そして、続く。 『こっちもひどいけど、絶対にあんたたちを見捨てない。どんな手を使ってもここを死守するわ。 逃げない。約束する。だから――』 俺にはハルヒが次に何を言うか、予測できた。だから、無線機を小隊の生徒たちに向けた。 『全員帰って来いっ! 絶対に!』 ◇◇◇◇ 俺たちはじりじりと慎重に植物園に向けて移動を始めていた。途中、何度も襲撃を受けたが、 その度に長門からの支援砲撃を要請し、ある時は谷口や他の生徒たちの活躍で撃退することができていた。 しかし、来た道とは違い、帰りはとんでもなく時間を食ってしまっていた。もうすでに12時を越えようとしている。 さらに、移動の間に負傷者が死者に変わり、また新たな負傷者が発生していた。すでに半数以上が負傷、あるいは死亡している。 「またさっきの負傷者が……」 国木田が沈痛な表情で報告に来た。これで死者は13名になった。置き去りにした生徒と言ってもいい。 大丈夫。これはゲームだ。勝てば元通り元通り…… そう俺は自分に暗示をかける。俺には生徒の死を受け入れるような頑強で器の広い心なんて持っていない。 だから、死者が増えるたびに自分に暗示をかけるようにこの言葉をつぶやき続けた。 でなけりゃ、無能な自分が許せなくなるからだ。 「あと、100メートルぐらいだろ。とっとと走っていこうぜ!」 目前まで迫った植物園に俄然焦り始めたのは、唯一の普通人、谷口だ。弱気な言動が多いのに、 なんだかんだでこいつのM60には助けられっぱなしだが。 「まあ、焦ることはないと思うよ。もうちょっとでつくんだからさ」 「そうだな。今まで通りのペースで行くぞ」 俺たちは移動を開始する。確かにもうゴールは目の前だから、はやる気持ちが沸々と俺の頭にも沸いてきた。 だが、敵もそれを阻止しようと必死だ。シェルエット野郎が数名襲ってきた。 「俺がしんがりをつとめる! 先に行け!」 もともと銃の扱いは頭の中にたたき込まれていたが、ここに来ていい加減慣れてきたのだろうか。 俺の射撃の命中率もかなり上がっていた。もっとも敵が物陰にも隠れようとせず、 ひたすら銃を乱射しながら突撃というワンパターンなため、簡単に命中させられているだけなんだが。 また、数名をシェルエットを飛散させると、先行して移動した小隊に戻る。見れば、植物園の建物が 木々の隙間から見えるほどまでに近づいていた。 「ここで、きちんとどこから戻るか伝えておいた方が良いよ。間違って攻撃されるかもしれないしね」 相変わらず冷静な国木田のアドバイスが飛ぶ。こいつとは腐れ縁みたいなものだが、こんなことが得意だった覚えはない。 俺たちと同じように相当頭の中をいじられているようだな。 俺は無線を持たせた生徒から無線機を受け取ると、 「ハルヒ。もうすぐそばまで戻ってきたぞ。北側から植物園に入る。間違って銃撃しないでくれよ」 『わかったわ。そこを守っているのは古泉くんだから、伝えておく』 なんだ。結局古泉もこっちに来ているのか。結局総動員だな。 「よし移動するぞ。もう少しだからな」 「ひゃっほう! これでうっとうしい森の中からおさらばだぜ!」 俄然やる気を取り戻した谷口に笑顔が戻る。まあ、それで終わりって訳じゃないが、 こんなところにいるよりかは幾分かマシだろうな。 木々を分けて移動を開始する。数メートル進むと、森との境に陣取っている古泉の小隊が見えた。 向こうもこっちに気がついたらしい。右手を挙げて、来てくださいと合図している。 その刹那、俺は右手に一人だけのシェルエット野郎がいることに気がついた。 向こうは目がないので、視線があることはないだろうが、俺ははっきりと悟った。今にもその構えたAKから弾丸が撃たれ、 俺に命中すると。 だが、ここで偶然なことが起こった。そうこれは偶然だ。突然、うきうき足で走る谷口が俺と敵の間に割り込んで来たんだから。 「谷口っ――!」 越えも間に合わず、俺の縦になるように谷口の上半身に2発の弾が命中した。貫通した弾はぎりぎりのところで 俺には当たらず背後に去っていった。まるで一連の事がスローモーションのようにはっきりと見えた。 そう、谷口が撃たれたのだ。 谷口を撃ったバカ野郎はすぐに国木田が始末した。俺はそんなことにかまわず谷口を引きずり、 古泉の部隊の場所に連れ込む。とにかく、古泉との再会は後回しだ! 「おい谷口! 大丈夫か! しっかりしろよおい!」 痛みのためか、谷口はうなるだけだった。ちくしょう! やっとここまで戻って来れたってのに! 「キョン、また敵が攻撃をしてきた。ここじゃまずい。ここは僕らが食い止めるから、谷口を涼宮さんのところへ」 俺の隣に飛び込んできた国木田がそううなずく。少し離れたところにいた古泉も任せてくださいと いつものスマイル声で言ってきた。すまねえ! 俺は谷口を背負うと、全力でハルヒの元に向かった。とにかく、トラックに乗せて学校に戻してやりたい。 そうすれば、きっと助かる。助かるに決まっているさ! 「へへっ、思ったより痛くないもんだな……」 背中から谷口の声が俺の耳に届く。 「痛いだろ。もうちょっとの辛抱だ! だからがんばれ!」 「痛くねえよ……ただ、あつくてたまらないけどな」 俺の背中にだらだらと血がしみこんでくるのがはっきりとわかった。もう痛みすら認識できないのか。 こんな中で、今まで俺がごまかし続けてきた言葉が浮かぶ。これはゲームなんだ。勝てばいい。勝てば元通り。 この世界で誰かが死んでも大したことはない―― 「そんなわけねえだろうが!」 俺は言うまいと思っていた言葉を口にしてしまった。ゲームだろうが何だろうが、谷口は今まさに死のうとしている。 これが現実だ。いまはっきりと起こっていることなんだよ! 何をどういっても否定のしようがないんだよ! 「キョン、俺がんばったよな。何度もお前を助けたし……」 「ああっ! おまえはすげえよ。何度もみんなを助けたんだ。誇りに思っていい!」 「これであの子も俺を見直すだろうな。振ったことを後悔させてやるぜ……」 「そうだな! だから、もう少しだ!」 もう俺は泣き出しそうだった。むしろ、どうして泣き出さないのか不思議なくらいだった。 「頼むぜキョン、ここでの俺は勇敢だったってみんなに伝えてくれよ……」 「自分で広めればいいだろ! そんな弱気なのこと言うな! 死ぬな死ぬな死ぬな!」 俺の必死の呼びかけにも関わらず、谷口がそれ以降言葉を発することはなかった。 ◇◇◇◇ 「キョン、谷口の遺体は学校に向けて搬送したわ……」 「……そうか。ありがとな、ハルヒ」 俺は声をかけてくれたハルヒに振り返りもせず、呆然と植物園の入り口付近に座り込んでいた。 谷口は結局死んでしまった。同時に俺の肩に14人分の死の乗りかかってきてしまった。 もはや、罪悪感を越えて、どうでもいいほどの放心状態だ。 しかし、一方で今後ろにいる人間に対する黒い感情が少しずつ広がっていることにも気がつく。 作戦を立てたのもハルヒだし、何よりもこれを仕組んだ者の目的は明らかにハルヒだ。 谷口や学校の生徒たちが死ぬ必要なんてない。大体、古泉が罠だって指摘していたじゃないか。 罠だとわかったからと言ってそんな簡単に引き返せるわけもないんだ。 「谷口は友達だったんだ。悪友だったけどな。普段はいてもいなくても、なんて考えたりしていたけど、 いざこうなると初めてどういった存在だったのか、よくわかったよ」 「ゴメン……なんて言っていいのかわからない」 ハルヒのしょぼくれた声に、一瞬で俺は正気を取り戻した。何を考えているんだ、バカバカしい。 仕組んだ者の目的がハルヒであっても、これはハルヒが望んだわけじゃない。ハルヒだって被害者だ。 それに作戦を立てて賛同した中には俺もいたじゃないか。ハルヒ一人を責めるのは明らかに間違っている。 俺だって同罪だ。 「なあ、ハルヒ」 「……なに?」 「俺、絶対に負けないからな」 やるしかない。やけにもならずに冷静にやるしかない。それでいい。 「うん……絶対に負けない、あたしも」 ハルヒの声もすっかり元気がなくなっていた。ちくしょう、これを仕組んだ奴はハルヒのこんな姿が見たいってのか? 「そんな声を出すなよ、中佐殿。不安になるだろうが」 「わ、わかっているわよ……! 当たり前じゃない! 絶対に負けない!」 少しムキになるところを見てほっと一安心。まだハルヒらしさが残っているようだ。 俺はようやくハルヒの方に振り返って――このときに見たハルヒの歯を食いしばるような表情は早々忘れないだろう。 と、ハルヒの迷彩服の肩の辺りの色が変わっていることに気がつく。大量の血が付着しているようだった。 「それ、大丈夫か? どこかやられたんじゃないだろうな?」 「え、ああ、うん、大丈夫。自分の血じゃないから。さっき負傷者を背負ったときについたんだと思う」 ほっと胸をなで下ろす俺。たのむぜ、団長殿。お前がやられたら終わりなんだからな。 俺はヘルメットをかぶり直し、 「また、戻る。鶴屋さんを助けに行かないとな」 そう言って俺は戦場に戻った。とびきりの作り笑顔をハルヒに見せてから。 ~~その3へ~~
https://w.atwiki.jp/anime_impression/pages/54.html
涼宮ハルヒの憂鬱レビュー (ジャンル:どたばたラブコメ) 全14話 監督:石原立也 アニメーション制作:京都アニメーション 評価 ストーリー キャラクター 声優 映像・作画 2点 5点 14点 16点 合計37/100点 感想 全体的に単調な展開で、(奴隷キャラがハルヒに従うのみ。) ハルヒに不快にさせられて、終わる方も多いと思います。 ストーリーを主として見る人にも厳しいと言えるかも。 この作品は敢えて、ナレーションをいれてます。 しかし、ただナレーションするだけでは退屈なだけです。 ここら辺の工夫はせずに、別の所ばかり力を入れている。 しかもその力の入れ方が雑で、内容とは関係無い事ばかり。 「珍しさ」だけで この作品を見てました。一部の人間にしか受けないアニメです。 「涼宮ハルヒの憂鬱」アニメ公式サイト SOS団公式サイト
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5129.html
This page was created at 2009.02.03 by ◆9yT4z0C2E6 ※※※※※※※※ 涼宮ハルヒの消失前日 落ちる! 無限にも感じた落下の感覚は覚醒する意識と共に消え失せ、冷たく固い床の感覚が取って代わった。 部屋の中まで容赦なく侵入してくる12月の冷気が、急速に布団のぬくもりを奪い取りにかかる。 まったく、暑い夏ならともかくなんでこのクソ寒い時に布団からこぼれ落ちたりするんだ、俺は? 再びぬくもりを享受すべく布団に潜り込もうとした俺は、そこに先客の存在を認めて凍り付いた。 妹のヤツが潜り込んだ? いやいや、いくら暗くてもそれならわかる。 もちろんシャミセンでもない。 ハルヒ? 可能性としてはありそうだが、説明したくない理由でそれも違うと断言しよう。 誰だ、こいつは!? 慌てて明かりを付けた俺の目に映ったのは、俺と同じように吃驚の貌をしている、俺と同じ顔だった。 ※※※※※※※※ お前は誰だ! 叫びかけて、慌てて口を抑えた。 下手に騒いで誰かが起きてきたりしたら面倒なことになる。 見ると、アイツも同じように口を抑えている。 思考せよ! 思考するんだ俺の灰色の脳細胞! アリシア人のように! こいつは誰だ? 顔は一緒だ。 行動パターンも一緒だ。 おそらく今考えてることも一緒だ。 俺と同じならばそれは俺だ。 なら俺は誰だ? いいやそんなことは後回しだ。 原因は何だ? 超能力的な何かか? そんなはずはない、あいつらの能力はおかしな赤い玉になることくらいだ。 超能力方面は除外だ。 では未来的な何かか? あるかもしれんが、それなら俺かあいつのどっちかはこの現象を経験済みのはずだ。 だがどうみてもそうじゃない。 未来的何かも除外だ。 なら宇宙的な何かか? 銀色に光るコンバットナイフの影が頭をよぎった時、ケータイが鳴った。 着信音は『雪、無音、窓辺にて』、長門だ。 ケータイは机の上で光りながら鳴っている。 俺の方が近い。 「長門か?」 『今からそちらへ行く』 電話が切られるとほとんど同時に、少女の姿が音もなく浮かび上がった。 「「長門」」 重なる声にかまわず、少女は抑揚のない声で 「遮蔽シールドを展開」 相変わらず言葉が足らないが、話しても声が漏れないってことなんだろう。 そう解釈した俺は、もう一人の俺――ベッドの上であぐらを組み、いつのまにかエアコンの暖房まで入れている――に向かって 「訊かなくてもわかるような気もするが一応訊くぞ、お前は誰だ」 「人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗ったらどうだ」 なんてひねくれた野郎だ。 いや、こいつは俺なのか? だとしたら俺がひねくれ者でひねくれ者がひねくれ者をひねくれ者だと言ったらそいつはひねくれ者なのか? あぁめんどくせえ! 「異次元同位体」 なんだって? 「あなた方の概念で言うところの、『異世界人』が最も近い」 ついに出たか、異世界人。 しかも俺かよ! やれやれだ、と首を振ってハタと思った。 どっちが異世界人なんだ? 見ると、もう一人の俺も俺を見ていた。 俺たちは同時に、長門へ振り向いた。 長門は俺たちを見つめている。 いや、あるいは何も見ていないのかもしれない。 いつもにもまして表情が読めなかった。 長門? まったく動かない長門に、俺たちは二人して心配し始めていた。 長門? 大丈夫か、長門? 肩をつかんで揺すってみるべきかと考え始めた時、まばたきをしてマイクロ単位に頷き、 「問題ない」 そうか? 目で問いかけると、再びミリ単位で頷いて見せた。 俺は長門に向けてイスを出して、机にもたれかかった。 もう一人の俺はベッドに腰を下ろした。 俺も、もう一人の俺も口を開かなかった。 長門に尋ねるべきことはわかりきっていたが、もし自分の方が異世界人だったら、俺はこれからどうすればいいんだ? 「なぁ、長門」 俺は意を決して長門に尋ねた。 どっちが異世界人なんだ? と。 長門の答えは意外だった。 「答えられない」 どうしてだ? 「命令だから。 わたしはあなた達の意志行動を支援すること、および情報秘匿を命じられた」 ――そうか―― 「つまり、俺たちも観察対象になった。 これでいいんだな?」 「いい」 はぁ…… 要するにまたハルヒのトンデモパワーのせいなのか。 こんどは俺が二人だと? 何考えてやがんだ? 雑用がもう一人欲しいのか? 俺たちは互いに貌を見合わせ、同時にため息をつき、腹をくくって互いの情報交換を始めたが、違いらしい違いは見あたらない。 余計にわからない。 同じ俺なら二人いる必要はないはずだ。 俺とこいつは何が違う? そこに事態打開の鍵があるはずだった。 ※※※※※※※※ 遠目にもよく目立つ黄色いカチューシャ。 あそこにいるのは…… 学校への坂道を上っていく生徒の流れの中に、ハルヒの姿があった。 「よう」 少し歩を速めて、横に並ぶ。 二人で額をつきあわせた結果、一致しなかったのはハルヒとの関係だ。 ある意味では一致したのだが、全く意味がなかった。 つまり、お互いに『俺にとってハルヒはなんなのか』という問いに答えを出せなかったのだ。 「珍しいわね、こんなところで会うなんて。 明日は雨かしら」 「別に。 たまには早起きすることくらいあるさ」 妹に起こされるわけにはいかない理由が出来ちまったからな。 『キョンくんが2人いる~!』なんて注進されてみろ、これ以上事態をややこしくするようなマゾっ気は俺にはないのさ。 俺たちの出した対策は、とにかくハルヒを観察することだった。 こうなった原因はハルヒだ。 ハルヒを観察していれば、何か掴めるかもしれない。 ちなみにあいつは長門にもらったナントカで透明人間と化している。 『意志行動の支援』ってやつだ。 一日交替で入れ替わることになっているので、明日は透明人間初体験ってわけだ。 「いつまでもだらだら布団にしがみついてるよりはマシね。 そうだ、明日もこの時間にきなさい。 坂の下の公園で待ち合わせ、あたしより遅かったら罰金だから」 「マテマテマテ、なんだいきなり」 「あんたに早起きのクセをつけてあげようという、団長としての配慮よ。 ありがたく受け取りなさい」 ありがたくねぇよ。 「ついでに体力ね。 はい、これ持ちなさい」 そう言って、さっさと鞄を押しつけやがった。 「おまえな、自分の鞄くらい自分で持て」 憮然としてそう返すと、 「鍛えようと思わないと鍛えられないわよ。 いつか好きな子が出来たとき後悔したくないでしょ」 意外なことを言う。 「お前の口からそんな言葉が出るとは意外だな。 恋愛感情は精神病の一種じゃなかったのか?」 「あんたまで同じに考えなきゃいけないって決まりはないのよ、もっと主体性ってものを持ちなさい。 それで?」 「それでって、何がだ?」 「鈍いわね、それでも健康な若い男なの? 気になる子とか好きな子はいないのかって訊いてるのよ」 こいつは本当に昨日までの、俺の知っている涼宮ハルヒなのか? 愕然として見つめる俺には目もくれず、恋愛談義を続けるハルヒ。 「みくるちゃんと有希はダメよ。 SOS団内での恋愛禁止、もちろんあたしもダメ。 わかって… ってあんたどうしたのよっ」 どうしたって、何が? 嗚呼、俺か。 俺がどうかしたのか? 「どうかしたのかって、あんた自分でわかってないの? 真っ青よっ」 「そんな貌してるか? 気のせいだろ。 さっ、行こうぜ」 確かに俺はショックを受けている。 だが、何にだ? ここが俺の世界じゃない可能性は何度も考えて、覚悟してたはずじゃないか。 「気のせいって、そんなわけないでしょ! そんな貌色で――帰るわよ、鞄よこしなさい」 ハルヒは鞄を二つとももぎ取ると、たまたま通りかかったクラスメートを掴まえて担任への連絡を命じ、俺の腕をつかんで坂を下り始めた。 こういう、こうと決めたら有無を言わせないところは俺の知っているハルヒだ。 抵抗も虚しくタクシーに押し込まれた俺は、部屋のベッドに寝かされている。 無理に起きようとしたら、技を掛けられて押し倒された。 ハルヒが俺を病人と思ってるのかどうか疑問だ。 ふぅ…… 肺の中の空気をはき出すと、全身が弛緩していくのがわかる。 ぬくもった布団が心地いい。 眠い…… 夕べ寝てないしな…… 「台所借りたわよ。 ――キョン? 寝ちゃったのかな」 小さな土鍋をのせたお盆を手に、ハルヒが俺を呼んでいる。 ベッド脇に座り、俺の貌をのぞき込んで―― ――今まで一度も見たことのない貌だった。 安堵? 慈愛? 満足? 誇り? なんなんだ? とても綺麗な、けれどどこか怖い――肉食獣を連想させる――、貌。 「もう大丈夫そうね。 よく寝てるみたいだし」 その声も、今まで聞いたことのない柔らかさを持っていた。 ハルヒの貌、ハルヒの声、その向かう先にいるのは――あれも俺だが、この俺じゃあない―― そもそも、あのハルヒが俺のハルヒかどうかは…… って俺のハルヒって何だっ! ハルヒは眠ってしまった俺をつついたりして遊んでいる。 その貌にはまるで、『愛してる』と書いてあるようじゃないか。 ……イライラするな。 なぜだ? ハルヒが普通の恋愛をしてる? いいことじゃないか。 普通、ウェルカムだ。 望むところだ。 相手が俺ってのはどうなんだ? 嫌なのか? そんなわけあるか! 嗚呼、そんなことあるわけがねえよ! なのになぜ、あいつが他の男にあんな貌を向けるのを黙って見てなきゃいけないんだ!? あれも俺だ、俺だが、この俺じゃない。 なんだってあそこにいるのはこの俺じゃないんだ! 唐突に、本当に唐突にわかった。 これは嫉妬だ。 俺が俺に嫉妬している? なんてばかばかしい図だ。 『俺にとってハルヒはなんなのか』? 嗚呼、今や答えは明白だ。 それから、俺で遊んでいるハルヒを見ながらボーっと考えていた。 ここがあいつの世界ならいい。 そうだったら、俺は俺のハルヒが俺を好きかどうかなんてまだ知らないですむ。 逆に、もしここが俺の世界だったら、俺はハルヒの心の内を覗いてしまったことになる。 そいつはフェアじゃない。 いつのまにか、ハルヒはベッドにもたれかかって眠っていた。 俺はステルスモードを解除して押し入れの毛布を取り出し、その背中にかけてやった。 よく眠っているようで、規則的な寝息が聞こえてくる。 その横にしゃがんで寝顔を見つめ、今やはっきりと自覚できる気持ちを言葉にした。 ※※※※※※※※ 落ちる! 次の瞬間、世界は反転し暗転し俺は果てしない落下の感覚に襲われた。 意識を失う直前、ハルヒの柔らかい微笑みを聞いたような気がした。 ――無限にも感じた落下の感覚は覚醒する意識と共に消え失せ、冷たく固い床の感覚が取って代わった。 部屋の中まで容赦なく侵入してくる12月の冷気が、急速に布団のぬくもりを奪い取りにかかる。 「帰って…… 来たのか? それとも、リアルな夢……?」 いや、どちらでもいい。 俺は気づいちまった。 そしてここには俺のハルヒが居る。 それで十分だ。 もしかしたら、俺は呼ばれたんじゃなく送り込まれたのかもしれないな。 気持ちを自覚するために。 それにしても、俺が見たハルヒをあの世界の俺は知らないわけだな、寝てたんだから。 「なるべく早く気づいてやれよ、別世界の俺。 自分の気持ちにも、あいつの気持ちにも」 窓の外、星を見上げながらつぶやいて、ふと思いついて付け加えた。 「そして頼むからこっちには来ないでくれ」 異世界人騒動はもう勘弁してくれ。 ※※※※※※※※ 目を覚ますと、ハルヒはベッドに寄りかかり、毛布をかぶって眠っていた。 押し入れ開けたのか? 仕方のないやつだ。 あそこには健康な男子の必需品もあったんだが、どうやらばれてないな。 時間は…… 昼をとっくに回ってるじゃないか。 時刻がわかると、とたんに腹が減った気になるのはなぜなんだろうね。 のども渇いたし、台所で何か探すとするか。 ごそごそと起き上がろうとすると、ハルヒが目を覚ました。 うにゃうにゃと寝ぼけてる貌は――うむ、可愛いと言わざるを得ないな。 だんだんと目の焦点が合っていき…… 俺の存在に気づいたな。 うれしそうな笑みがこぼれて――うむ、さっきの100倍可愛いと言わざるを得ないな。 だがまだ寝ぼけているようだ。 俺がじっと見ていることに――今、気づいた。 「こぉらキョン! 女の子の寝顔を勝手に見るなんてサイテーよ!」 さようなら、100倍可愛いハルヒ。 短い生涯だったな。 「ハルヒ」 「なによ」 「可愛かったぞ」 「ばか」 こいつのこんな貌を見るのはあの、ポニーテールをほめた時以来だな。 いつまでも見ていたい気もするが、悲しいかな、人間とは腹の減る生き物なのだよ。 「腹減ってるだろ? なんか喰おうぜ」 なぜにアヒル口になる? 「あ…… 毛布かけてくれたんだ。 ありがと」 かぶっていた毛布をたたみながら、そんなことを言った。 ハルヒが自分で出したんじゃないのか? 嗚呼、あいつか。 俺は曖昧に答えて台所へ降りていった。 ハルヒのこしらえた軽い物を二人で食べながら、 「それにしても朝は吃驚したわよ。 あんたホントにまるで血の気のない顔してたわよ? 今は大丈夫みたいだけど」 ふむ。 「嗚呼、あの時はちょっとショックなことがあってな……」 「へぇ?」 「恋愛談義なんて絶対しそうにない女が突然、俺に向かって好きな子はいないのかなんて訊いてきたんだ。 異世界にたった一人紛れ込んだんじゃないかと思うくらいショックを受けても当然だろ?」 実際、そうかもしれないからな。 「へぇ……」 「あっ! こらっ!」 「喰うなっ! 自分で作れっ!」 ハルヒのやつ、俺の皿を取り上げやがった。 「はぁ、なんだかいい夢見てたと思ったんだけどなぁ」 皿を取り返して、 「いい夢? どんな夢だ? 宇宙人か未来人か超能力者か異世界人でも出たか?」 「な~いしょっ。 はぁ……」 なぜそこで俺を見ながらため息をつく。 なんだそのかわいそうな生き物を見るような目は? 「ま、いいわ。 食べ終わったら支度しなさい」 支度? 何のだ。 「学校行くのよ。 今からならSOS団の活動に間に合うわ」 ※※※※※※※※ 「みんな居るっっ!?」 文芸部室の扉を開けて涼宮ハルヒが入ってきた。 『鍵』……彼を伴って。 私は本を読み続ける。 彼はいつもの席に座り、お茶を飲み、古泉一樹とゲームをする。 涼宮ハルヒはいつもの席に座り、お茶を飲み、ネットサーフィンをする。 何も変わらない、いつもの風景。 私の、エラー発生頻度が異常を示していること以外は。 『彼』は元からこの次元に存在していた『彼』 もう一つの『鍵』は消滅した。 元の次元に帰ったのかは不明。 私には次元を超える観測能力はない。 異次元同位体は存在した。 これは事実。 しかし出現した経緯は不明。 不明。 不明。 私は、なぜ、涼宮ハルヒが喚んだに違いないという判断に固執している? 判断は保留されるべき。 あるいは、統合思念体に情報提供を申請するべき。 私はするべきことをしていない。 否、できないでいる。 必ずノイズが発生し、実行に至らない。 自己診断。 診断結果は異常なし。 このような結果はありえない。 診断結果が異常。 私は私の異常を報告するべき。 ノイズ発生。 失敗。 ……いつもの時間。 私は本を閉じた。 彼がこちらを見ている。 彼は情報を欲している。 だけ。 ……エラー頻度の非線形変化を検出。 一人になってマンションで待つ。 彼は来る。 来た。 「俺だ」 「入って」 彼が座卓に座る。 私はお茶を淹れて彼の前に置いた。 朝比奈みくるの淹れるお茶と温度、成分とも同じになるように淹れた。 「早速で済まないんだが、あいつはどこにいるんだ?」 期待した言葉ではなかった。 期待? それはナニ? 期待。 期待値。 確率。 数学。 ……unmuch failure 原因不明のエラー増大を検知。 「消滅した」 「消滅っ!?」 「状況から、元の次元に帰還した可能性が最も高い」 「あ、あぁ…… 帰ったのか。 脅かすなよ」 「……」 「それじゃあ、俺がこの世界の『俺』で間違いないんだな?」 「そう」 彼が安堵している。 「そうか、一度くらいは透明人間を体験してみるのも悪くないと思ってたが、そのチャンスはなくなったってことか。 少し、残念だな」 「あなたが望むなら」 「なんだ? 透明人間体験、させてくれるのか?」 私は頷いた。 「そうだなぁ……」 私の提案を彼が思案する。 何故思案するのだろう? 彼は透明人間を体験してみたいと言ったはず。 私の認識は間違っている? 彼の表情が微妙に変化した。 心拍、血流の増大を検出。 貌が赤い。 原因不明のエラー増大を検知。 「やっぱりやめておく」 彼は小さく「卑怯だからな」とつぶやいた。 もちろん、私には聞こえている。 誰に対して卑怯なのか。 彼がどんな想像をしたのか。 判断する材料は不足している。 不足しているにもかかわらず、私の判断は『彼は涼宮ハルヒのことを考えていた』と断定した。 原因不明のエラー増大を検知。 「そう……」 「それより」 彼が話を変えた。 「あいつはどうして帰ることができたんだ? 長門はずっと観察してたのか?」 そう。 私はずっと観察していた。 彼が消滅する直前、涼宮ハルヒにしたことも。 そのことは統合思念体にも報告していない。 私は答えない。 答えられない。 それを口止めされていると解釈したのか、彼はまぁいいかと言って立ち上がった。 彼が行ってしまう。 「それにしても、人騒がせなやつだ。 俺はもう少し、常識的で普通の生活がいいんだがな」 「じゃあ長門、今日は世話になった。 こんど何かおごるよ。 また明日、学校でな」 靴を履き、彼は出て行った。 異次元同位体が消滅の直前に、涼宮ハルヒに投げかけた言葉。 『好きだぞ、ハルヒ』 涼宮ハルヒは彼でない彼からの言葉で彼を解放した ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ 涼宮ハルヒは彼でない彼からの愛の言葉に反応した ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ 涼宮ハルヒは、彼 で な い 彼 で も い い の だ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ 否、これはエラーではない。 ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ これは私が新しい概念を獲得した証。 ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ これは『恋』という概念。 ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫ 全てのエラーがマスクされていく。 『恋』は全てに優先する概念。 これで正しい。 私は、正常。 そう、わたしはせいぢょう。 ※※※※※※※※ 少女が歩いている。 セーラー服を着た、小柄な、ショートヘアの少女は真冬の夜を歩くにはあまりにも薄着だったが、まるで寒さなど感じていないかのように歩いている。 ひとつの街灯の下で少女は立ち止まった。 街灯の明かりがまるで、スポットライトのように少女の姿を映し出す。 アッシュの髪。 感情のない無表情な貌には、何も見ていないような、あるいはすべてを見透しているような黒曜の瞳。 少女は夜空へ向けて手をかざす。 伸ばした手の先には、輝く冬銀河。 「 」 少女が何かをつぶやいた。 やがてかざした手を下ろした少女は、自分が今まで何をしていたのかわからないとでも言うように不安そうにあたりをきょろきょろと見回し、寒そうに早足で夜の闇に消えていった。 ※※※※※※※※ もし聞く者が居たら、少女のつぶやきはこう聞こえただろう。 『常識的で、普通の世界……』 少女が恋する、普通の少年が何気なく口にした一言。 少女は、自身の恋に忠実に行動した。 fin.
https://w.atwiki.jp/haruhi_dictionary/pages/42.html
基本情報表紙 タイトル色 その他 目次 裏表紙のあらすじ 出版社からのあらすじ 内容 あらすじ 挿絵口絵 挿絵 登場人物 刊行順 基本情報 涼宮ハルヒシリーズ第2巻。2003年10月1日初版発行。 表紙 通常カバー…朝比奈みくる 期間限定パノラマカバー…朝比奈みくる、古泉一樹 タイトル色 通常カバー…橙色 期間限定パノラマカバー…橙色 その他 本編…270ページ 形式…長編 目次 プロローグ…P.5 第一章…P.14 第二章…P.48 第三章…P.100 第四章…P.154 第五章…P.210 エピローグ…P.270 あとがき…P.276 裏表紙のあらすじ 宇宙人未来人超能力者と一緒に遊ぶのが目的という、正体不明な謎の団体SOS団を率いる涼宮ハルヒの目下の関心後とは 文化祭が楽しくないことらしい。行事を楽しくしたい心意気は大いに結構だが、なにも俺たちが映画をとらなくてもいいんじゃないか? ハルヒが何かを言い出すたびに、周りの宇宙人未来人超能力者が苦労するんだけどな―― スニーカー大賞<大賞>を受賞したビミョーに非日常系学園ストーリー、圧倒的人気で第2弾登場! 出版社からのあらすじ スニーカー大賞〈大賞〉受賞作、早くも第2弾登場!! 季節は文化祭のシーズン。ありきたりな"お祭り"では飽き足りない涼宮ハルヒはSOS団の面々を使いまくり、自主映画の制作を開始する。 当然のごとく、ハルヒの暴走はとどまることをしらず……。超話題作の第2弾!! 爆進中!NO.1 第ベストセラー第2弾!! 内容 あらすじ 挿絵 口絵 涼宮ハルヒ、朝比奈みくる 長門有希、朝比奈みくる、鶴屋さん、谷口、国木田 涼宮ハルヒ、長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹 挿絵 「プロローグ」 挿絵なし 「第一章」 P.25…涼宮ハルヒ、朝比奈みくる 「第二章」 P.53…涼宮ハルヒ、キョン、朝比奈みくる P.83…涼宮ハルヒ、長門有希、朝比奈みくる 「第三章」 P.129…朝比奈みくる 「第四章」 P.157…古泉一樹、鶴屋さん P.197…涼宮ハルヒ、キョン 「第五章」 P.227…長門有希、シャミセン P.257…古泉一樹 「エピローグ」 挿絵なし 登場人物 涼宮ハルヒ キョン 長門有希 朝比奈みくる 古泉一樹 鶴屋さん シャミセン 谷口 国木田 キョンの妹 刊行順 <第1巻『涼宮ハルヒの憂鬱』|第3巻『涼宮ハルヒの退屈』>
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2507.html
涼宮ハルヒのデリート 誤解なんてちょっとした出来事である。 まさかそんなことで自分が消えるなんて夢にも思わなかっただろう。 キョン「あと三日か・・・。」 キョンつまり俺は今、ベッドの上で身を伏せながらつぶやいた。今を生きることで精一杯である。 なぜ今俺がこんなことをしているのかというと、四日前に遡ることになる。 ハルヒ「キョンのやつ何時まで、団長様を待たせる気なのかしら?」 いつもの集合場所にいつもと変わらない様子で待っているメンバーたち。 団長の話を聞いた古泉が携帯のサブディスプレイをみる。 古泉「まだ時間まで五分あります。」 と、団長に伝える。 ハルヒ「おごりの別に、罰でも考えておこうかしら。」 っと言ってSOS団のメンバーは黙り込んだ。誰一人として口を開こうとしない。その沈黙を破ったのは、ベタな携帯の着信音だった。 ハルヒ「あとどれぐらいで着くの?団長を待たせたんだから・・・」 っと言われ「一方的に電話をきった。ベタな展開だったら俺が切るのだが、なにしろ相手があのハルヒだから仕方がない。 かわりに古泉に電話をかけた。 古泉「僕に電話とは、あなたも罪な人ですね。涼宮さんが嫉妬しますよ。」 ウザイ、何勘違いしてんだこのホモ男。 古泉「冗談です。僕に電話をかけたぐらいですから、何か理由があるのでしょう?」 やっぱりコイツと話すのは少し気が引けるな。 キョン「今日は、急用があるから探索にはいけないとハルヒに伝えてくれ。」 古泉「その用とは?何の事ですか?」 キョン「どうしても言わなくてはいけないのか?」 古泉「・・・。まあ別にいいでしょう。あなたの休日まで追及はしません。」 キョン「じゃ、頼むぜ。」 電話のやり取りを終えた古泉はハルヒに用を伝えた。 ハルヒ「仕方がないわね。じゃあ、今日は二人のペアで北と、南に分かれて不思議を探しましょう。」 ~ハルヒ視点~ ハルヒとペアになった、いやなってしまった朝比奈さんは午前中ずっとハルヒの不機嫌オーラを感じ、おびえながらハルヒの後についていったそうだ。 午前中の散策が終わりいつもの場所へ向かう途中朝比奈さんがあるものを発見してしまった。 みくる「あれって、キョンくんじゃないですか~~?」 ハルヒは朝比奈さんの指す方向に素早く振り向いた。 ハルヒ「散策をサボっておいて、何をやってんのかしら?」 しばらくハルヒが何かを考えていると思うと、頭の上の電球が光った。 ハルヒ「キョンを尾行するわよ、みくるちゃん。キョンの休んだ理由がわかるし、不思議なところへいけるかも知れないし。」 みくる「で、でも~~、長門さんと、古泉くんのことはどうするんですか~~?」 ハルヒ「そんなの後で電話しておけばいいじゃない。」 っと言って、彼の尾行を始めた。何度かみくるちゃんから「やめましょうよ~~。」っと言われたがすべて無視した。 彼の行き先はいつもの駅から一駅離れたところだった。 ハルヒ「なんでわざわざこんなところにくるのかしら・・・。」 みくる「やっぱり、やめませんか~?キョンくんには彼なりの事情があると・・・。」 言いかけていた彼女の口をふさいだのは、ハルヒの手だった。 みくる「何するんですか~?」 ハルヒ「誰かに手を振っているわ。ここからじゃよく見えないから別の場所へ移動しましょう。」 っといってハルヒは朝比奈みくるの手をとり移動した。 みくる「あれって、女の人じゃないですか~?」 ハルヒの目に移ったのは、キョンが親しげにその女性と話しているところだった。 そして、気づいたらそこから走って逃げ出しているところだった。 走るのをやめて歩いていると、後からみくるちゃんが追いついてきた。 みくる「きっと彼女じゃないと、思いますよ・・・。」 ハルヒ「あったりまえじゃない、あのキョンに彼女ができるわけないじゃない。ただ少し暗くなってきたから早く帰りたいなと思って・・・。」 わかりやすい嘘をついてしまったと思い、すこし悔しがった。駅あたりで二人が別れた。 ハルヒの後姿はどこか悲しげな表情にみえたそうだ。 ~キョン視点~ 妹のダイブによって起こされた俺は、いつもの強制ハイキングコースを心行くまで楽しんでいた。 学校にいく間、谷口のナンパ話を聞かされた。まったく飽きないやつだ。 谷口「でだな、やっぱりゲーセンのやつらを狙うのはよくなくてでなあ・・・。」 キョン「お前のそのナンパ話はこうで96回目だ。」 っと口を挟む。まったく朝から暑苦しいやつだ。熱心に語ってきやがる。 谷口「そういや、お前なんで土曜日の探索に行かなかったんだ?」 キョン「・・・。なんで、お前が知ってる?」 谷口「ギクッ!!!忘れてくれ・・・。」 そんな話をしているとすぐに学校に着いた。靴を履き替え教室に向かうと、何から話そうか考えた。誰にって、そりゃハルヒにきまってんだろ? 絶対追求してくるに違いない。 しかし、予想に反してハルヒは何を言ってこなかった。それどころか、教室に入ってきた俺をまるで何もいないかのような反応を見せた。 キョン「ど、土曜はすまなかったな。急に休んだりなんかして・・・。」 しかし、ハルヒは何の反応もしない。気まずい、ククラス全体が注目してる。 キョン「休んだ事を怒ってんのか?」 ハルヒ「・・・・・・。」 無反応のハルヒに気まずさを感じていたら、チャイムがなりホームルームが始まった。 まったく、休んだぐらいでそんなに怒るかよ・・・。 結局午前中はハルヒと何も話さず、不機嫌オーラを受け続けていた。 昼休みは教室を抜け出しどこかへいってしまった。 谷口「お前、涼宮になんかしたか?」 キョン「いや、何もしていない。何で怒っているか知りたいぐらいだ。」 本当に何を怒っているんだろうな、ハルヒのやつ。 そして授業の終わりに二人のムードに耐え切れなくなった谷口が、あろうことかハルヒに話しかけてしまった。 ハルヒ「何よ谷口。あんた宇宙人でも見たの?」 じとっとした目で、谷口を睨む。 谷口「キョンと喧嘩するのはいいが、クラスのムードまで暗くするな!」 っと強気で言った。ああ、谷口、お前死んだな。相手を考えろ、相手を。 しかし返ってきた返答は、最悪なものだった。 ハルヒ「キョンって、誰?」 教室が完全に凍りついた。その中を凍らせた原因のハルヒが通りすぎていった。 マジかよ? なにかあったかも知れんと思い、逸早く部室へ向かった。 キョン「長門!これは一体どういうことなんだ?」 俺は部室の隅で静かに本を読むインターフェイスに問いだした。しかしまた返って来た返答は最悪だった。 長門「あなたが悪い。」 ・・・・。俺は言葉を失った。一体何をしたんだというのか。あの長門からこの言葉を言われると正直つらい。 すると後ろから古泉が入ってきた。 キョン「お前ならわかるか?俺がハルヒから無視されている理由。」 よく考えてみれば、長門がああ言っているのだから古泉に聞いても仕方がなかった。 ふわりと自分の体が倒れるのを感じ、殴られたとわかった。我ながら格好悪い。 古泉「あなたがそんな人だったとは、失望しました。涼宮さんが無視するのもよくわかります。」 一体どういうことだ。何が起こっている?これもまた異世界なのか? とりあえずこの日は家に帰った。あんなことを言われてあの場にいれるほど、俺も狂っちゃいない。 一体何が悪いのか考えているうちに眠りに入った。 朝だ・・・。妹のプレスを食らう前に起きた。とりあえず再びハルヒに誤っておこうと思い学校へ向かった。 向かう途中ずっと考えていた。そもそも俺をいないものだと言うほど嫌っているのに、どうやって誤ればいいのか。 それに理由もわかっていない。・・・そうだ、朝比奈さんに聞こう。 昼放課に朝比奈さんを呼び出した。 キョン「あの、俺って何かハルヒに悪い事いしましたか?」 真剣な口調で話す。彼女なら何か知っているのだろうか? その言葉に驚いたような様子をみせ、真剣な顔つきで話始めた。 みくる「あの、始めに言っておきます・・・。」 キョン「はい?」 みくる「ごめんなさい。」 パ~ンという音が響いた。そう、ビンタされた。そして朝比奈さんはどこかへいってしまった。 あの、朝比奈さんに殴られたのは相当ショックだった。 結局午後の授業にはでずに欠席した。この日は何もかもにやる気がでず。ベットで眠ることにした。 朝、自分の体の異変に気づいた。 -あと3日で自分は消える 何でわかるかって?分かってしまうからしょうがない。これしかないな。 今の状況に絶望した自分は学校を休んだ。だってあと三日で死ぬとわかっていて何をすればいいかなんかわからん。 夕方、古泉が家を訪ねてきた。しぶしぶ話を聞くことにする。 古泉「いい加減にしてください。とにかく明日、涼宮さんに謝る事です。何度閉鎖空間を潰したことか・・・」 キョン「・・・。俺が何をしたっていうんだ?」 古泉「とぼける気ですね。まあ、いいでしょう、言ってさしあげますよ。先週の散策あなたは休んだ。そしてわざわざ僕たちから離れるようにして彼女に会った。それに対して涼宮さんは失望しているのですよ。」 キョン「待て!それは・・・。」 古泉「ともかく、明日は学校に来て謝ってください。それで済むことですから。」 俺は終始まともな話ができず、家に戻った。 「あと三日か。なんとしてでも・・・」 彼女に会っただと。とんだ誤解だ! 次の日は一日中ハルヒにかけた。全て無視されて、だんだん自分が消えていくのを感じ、孤独感に襲われた。 手紙をつかってみたりもしたが、やはり無視された。 ・・・。一体全体どうなっているんだ? 帰り際、しかたなく古泉と少し話をすることにした。 キョン「全て無視されている。もう俺が消えたみたいに。」 古泉「どういうことです?もう、とは?」 キョン「古泉、俺はあと二日、いや明日いっぱいまでしか生きられない。」 古泉「・・・。なんで分かるのですか?」 キョン「分かってしまうのだからしょうがない。っということだ。」 古泉「・・・なるほど、どうですか。僕の憶測ですが・・・、土曜にあなたが彼女にあったことが原因でしょう。」 キョン「そのことなんだがな・・。実はそれお袋なんだ。俺の。」 古泉「!?・・・それが本当ならものすごい間違いですね・・。」 キョン「まあ、俺の親は若いときに俺を生んだからな。」 古泉「で、その誤解により、あなたに失望し悲しんだ。あなたがいなければ悲しまなかったのに、とでも考えたのでしょう。」 キョン「だったら、すでに消えているべきじゃないのか?」 古泉「そうですね、あなたに謝ってほしかったのではないんですか?」 キョン「・・・(違うだろ)。まあそんなことよりこれからどうするかだな。」 古泉「そうですね。今のままでは、この世界にも失望して改変されかねませんからね。」 キョン「しかし、俺の書いたものまで目にはいらないとなると、どうすればいいんだ?」 古泉「分かりません。でも、あなたのやる事を信じたいと思います。」 いつまでも本当にクサいやつだな。しかも顔が近い、キモイ。どけろ 古泉「僕にできることがあれば、何でも協力しますよ、親友として。」 キョン「わかった。」 っといって別れたのはいいがさっぱりどうしたらいいのかわからん。 このままでは、本当に消えてしまう。何かいい方法はないのか? 長門に頼るか?いや、今回は自分で考えるべきか? 人間はこういう大事な日に限ってすぐに寝てしまうものだ。 次の日結局何も浮かばず、半日をすごしてしまう。 今いるのは部室だ。ここでなんとかしなければ、消えてしまう。 ふいに長門が何か語ってきた。 長門「あなたはもう答えを知っているはず。答えは過去にあり、現在に関係する。」 そのことを信じていいんだな、長門。・・・。 最後になるかもしれない部活は、ハルヒに俺が認識されないまま終わった。 帰り際、あるひとつの答えにいきついた。唯一の接触できるチャンス、そして最後の切り札。 キョン「古泉、親友としてのお前にひとつ頼みがある。」 古泉「なんでしょう?できる限りのことをいたしますよ。」 キョン「それはだなぁ、夜に東中にきてくれと手紙にかき、渡しといてくれ。」 古泉「なんのことだか、分かりませんが、それが望みならやっときます。」 そう答えは今日という日つまり七夕。答えは三年前。 東中に着くとハルヒをベンチで待つ。懐かしいな、この場所。丁度暗く顔をしっかりと見えない。 しばらくするとフェンスを乗り越え、ハルヒがやってきた。 ハルヒ「やっぱり、ジョン・スミスだったのね。」 そう、最後の切り札はこれだ。そして予想どうり接触することができた。 ジョン「どうだ、高校は?」 するとハルヒ今までの活動を話始めた。 ハルヒ「やっぱり、宇宙人はみあたらないわね。でも、SOS団っていうね・・・。」 俺も、(俺は話から消えていたが)今までの活動を思い出していた。 ハルヒ「ジョン泣いているの?」 俺の顔には涙が流れていたらしい。あと十五分の命だ。 ハルヒ「私何か大事なことを忘れている気がする。」 ふいにハルヒが言ってきた。思い出してもらうチャンスかもしれない。 ジョン「今からいうことを真剣に聞いてくれ。」 ハルヒはキョトンとした顔だったが、気にせず話をつづける。 キョン「昔、キョンと呼ばれていた男がいた。彼は普通の人生に飽きていた。そこに自分と同じ考えの女の子が現れた。 彼女は不思議を追い求めて彼を振り回した。しかし彼はそれを迷惑と思わず、むしろ自分の人生が楽しくなるのを感じた。・・・」 もう涙が止まることはない。 ジョン「しかし、ちょっとした誤解で二人はもう二度と会わなくなってしまった。」 ハルヒ「それがジョンあなたなの?」 ジョン「ああ、SOS団か・・・楽しかったな。」 嘘と真実がまざりメチャクチャになってきた。 ハルヒ「わたしが忘れていることって、まさか?」 ばらばらだったピースが合わさった。しかしもう時間がない。 ハルヒ「女の子はわたしなのね。」 キョン「ああ、誤解が解けないのが残念だったな。」 ハルヒ「・・・。」 キョン「ハルヒ、約束してくれ。俺がいなくてもこの世界に失望しないことを。」 ハルヒ「・・・、わかった。って、何その死ぬ前みたいな言葉。それに体が・・・」 体が消えてきた。くそ!時間がない。 キョン「じゃあな、ハルヒ。消える前にお前のポニーテールが見たかった・・・。」 こうして俺、キョンはこの世界から消えていった。 思えば、普通の高校生として生きていくよりはよかったんじゃないのかと、思えた。 その後ハルヒは古泉から誤解について説明された。 俺が消えた世界では、俺の体は残っていないので失踪っということになっている。 妹よ、兄が消えた事に悲しんでいるか? 世界が改変されることが起こらず、いやそれどころか閉鎖空間すら発生しなかったそうだ。 SOS団は今も健在しており、ポニーテールの団長様はなんとかやっているようだ。 ハルヒ「・・・。あれから一ヶ月ね。本当にどこへいったのかしら・・・。」 ハルヒが俺の席をみてつぶやく。 みくる「・・・・。きっと帰ってきますよ。」 ハルヒ「でも、目の前で消えていくのを見たのよ!わたしだって信じたい、帰ってくると。」 古泉「いい加減にしてください!] 急に叫んだ古泉に、二人は意表をつかれた。 古泉「そんなこといっていたら、彼が帰りづらいじゃないですか。」 部室が静まりかえった。・・・・。どういうことだ? 古泉「実はですね。先日警察に身柄を確保されましてね・・・。」 っといって、ハルヒに新聞を渡す。確かに新聞には俺の写真がうつっている。 古泉「いると信じなくては、いるものもいあくなってしまいますよ。」 するとハルヒの顔にいつもの120ワットの笑顔が戻った。 次の日、俺はベットの上で横になっていた。 なぜ俺がこの世界に戻ったのかというと簡単なハルヒの思い込みだ。 まったく便利な能力だな。まあそれのせいで、消えていたわけだが・・・。 さてまずは最初に一ヶ月の幽霊生活。これでもハルヒ話してやろうかな。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4993.html
特別前日に何かをしたというわけではないのに朝が辛いというのは冬場ではデフォであり、 高校生になった息子もそれは例外ではないようだ。 「あんた達、さっさとご飯食べないと遅刻するわよ!」 …前言撤回だ。 我が妻、ハルヒにとっては今が冬場の辛い朝だろが何だろうが関係ないようだ。 「なんで母さんは朝からそんなに元気なんだよ…」 息子よ、それは俺も同棲を始めた頃から思っていたが、今そうやってハルヒに絡むと… 「何言ってんの! あんた達が弱すぎるのよ。それにそんなこと言ってる暇があるなら とっととご飯を胃袋に詰め込みなさい」 ご愁傷様だな。 後、あんた達って俺も入ってるんだな。 「ちょっとキョン、あんたもボーっとしてないでさっさとしなさい! 親が息子に負けてどうすんの」 へいへい分かりましたよ。 「じゃあ、言ってきま~す」 「あ、コラ待ちなさい!」 残念だな息子よ。 本日の脱出ミッションも失敗したようだな。 「や、止めてくれ。何時も言ってるだろ母さん。俺はもう高校生だ。だから、それはもう駄目だって」 「何言ってんのよ。高校生になろうが大学生になろうとあんたはあたしの子供なの。 だからこれはあんたの義務でもあるのよ!」 世界の何処にそんな義務があるのかね? 「やれやれ、とっととしてくれ…」 おい、それは俺の口癖だ。 俺のアイデンティティーだ。 勝手に使うのはゆるさんぞ。 「誰かさんと違って素直でよろしい… チュッ。はいっ、じゃあしっかり勉強してくるのよ!」 一言多かったですよハルヒさん。 「へいへい」 お、そろそろ俺も行かんとな。 リアルに遅刻しそうだ。 「じゃあハルヒ、俺も行ってくるよ」 「…………」 勘違いしないでいただきたい。 この三点リーダは万能宇宙人のものではない。 傍若無人ハイスペック奥様涼宮ハルヒのものである。 もとい、涼宮ではなかったな。 では何故そのハルヒがこんなに大量の三点リーダを発してるのかと言うと、 毎朝俺に課せられた義務が施行されるのを待っているからだ。 いや、義務でもあるが世界中で唯一俺に与えられた権利と言ったほうがいいな。 …しかし、何時ものことながら、こうして黙って俺を待っている時のハルヒは可愛いな。 もう、そこそこいい歳になるはずなんだがな… って早くしないと遅刻するっての! 「ハルヒ… チュッ。…そんじゃ行ってくるよ」 「…素直でよろしい。じゃあ、しっかり働いてらっしゃい!」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3672.html
7.回帰 俺にできることはやった。後はハルヒの目覚めを待つだけだ。 大丈夫だ、ハルヒはきっと目覚めてもハルヒのままだ。 俺は自分にそう言い聞かせていた。 過ぎてしまった予定時刻。 俺は間に合わなかったのか。 苦々しい気持ちでハルヒの病院に向かった。 病院に着くと、朝比奈さんが出迎えてくれた。 「涼宮さんはまだ目が覚めないんです……」 うつむき加減で朝比奈さんが言った。 俺はますます不安になった。俺は間違っていたのか? その答えを考えるのはあまりにも苦しい。 「長門は大丈夫なんですか?」 もう一つの懸案事項を聞いてみた。 「そ、それが、一旦目が覚めたんですけど、『統合思念体による点検』 と言ってまた寝ちゃったんです」 点検ね。長門の今回のダメージが俺にわかるわけもないが、TFEIすべてを奪われた親玉としては、何かしらのメンテナンスが必要ということか。 まあ、それでも長門はもう大丈夫なんだろう。 「涼宮さんについて、長門さんは何かおっしゃってましたか?」 古泉が、俺が後回しにしていたことをズバリ聞いてきた。 返事を聞くのが怖い。ところが── 「それが、長門さんは一瞬だけ起きて、直ぐに寝ちゃったんです。 だからわたしにもわかりません……」 まだ答えは保留のままだった。 ハルヒの病室前に着いても、俺はまだためらっていた。 ハルヒが目覚めて、うつろな目で俺を見ていたら。 その目の中に、ハルヒを見つけられなかったら。 俺はどうすりゃいい? 「入らないんですか」 俺の後から歩いてきた古泉が、ドアの前で躊躇している俺に声をかけた。 振り向くと、真顔で俺を見つめていた。 その目の言わんとすることがわかってしまうのが癪にさわる。 『あなたの選択の結果を受け止めてください』 古泉はそう言っている。 俺は大きく息を吸い込むと、ドアを開いた。 ハルヒは変わらない顔で、規則正しい呼吸を続けて寝ていた。 期限はとっくに過ぎている。何故目覚めない? 古泉も真剣な面持ちでハルヒを見つめている。 この1週間、こいつの顔からはニヤケ面が消えていることの方が多かった。 こいつも辛かったんだろう。 「涼宮さん……」 朝比奈さんが呟いた。 俺たちは黙ってハルヒのそばに立っていた。 どれくらいの時間が経っただろう。 「すみません、機関の方に報告に行かなくてはなりません」 古泉が言った。 こんなときにか? 俺がなじるように言うと、古泉が顔をしかめた。 「すみません……僕もここから離れたくはないんです」 ああそうだな、わかってはいるんだ、副団長。 今回、機関とお前の協力がなければどうにもならなかったしな。 新川さんと森さん、多丸さんたちにもよろしく言っといてくれ。 「わかりました」 元の、とは言えないが、少しだけ笑みを浮かべて、古泉は出て行った。 「あの、わたしも長門さんのところへ行ってきますね」 何故か朝比奈さんも出て行った。 もしかしたら、朝比奈さんもハルヒの目覚めが怖いのかもしれない。 いや、間違いなく怖いだろう。 これだけ時間が経っているのに、まだ目が覚めないんだ。 俺も怖い。逃げ出したい。 だけどな。 「俺が逃げる訳には行かないんだよな」 ハルヒの頬に触れてみる。まだ、ちゃんと暖かかった。 そのままハルヒを見つめる。 こいつは大人しければ美少女なんだよな。まさにスリーピング・ビューティだ。 そこまで考えて俺は苦笑した。 これから俺がしようとしていることがあまりにもベタだったからだ。 まあ、誰もいないしな。深く考えるのはよそう。 俺は身をかがめて、ハルヒに口付けた。 これで目覚めるほど甘くはないだろう。どこのおとぎ話だ。 ところが、おとぎ話だったらしい。 ハルヒがゆっくりと──目を開けた。 「ハルヒ!」 思わず声をかける。ハルヒはきょとんとした目で俺を見つめていた。 その顔を見て、俺はますます不安になる。 「俺のことがわかるか? ……ハルヒ」 おそるおそる聞いてみた。 それを聞いて、ハルヒはガバッと跳ね起きると、俺を睨み付けて言った。 「何言ってるのよバカキョン! あんたあたしのことバカに……えっ!?」 最後まで聞かず、俺はハルヒを抱きしめていた。 「ちょ、ちょっと、あんた何してんのよ! 離しなさい! 離せ!!」 俺の腕の中でもがくハルヒを無視して、腕に力を込める。 「誰が離すかよ、バカ野郎!!!」 ああそうだ、誰が離してなんかやるもんか。 もうこんな思いはゴメンだ。 2度と離してやらねぇからな。 「ちょっと、キョン……泣いてるの?」 うるせぇ、泣いてなんかいねえよ。目にゴミが入っただけだ。 「バカ」 ハルヒはそれ以上何も言わず、俺の背中に手を回して抱き返してきた。 やっと帰ってきたな、ハルヒ。 長かった。たった1週間とは思えないほど。 俺が落ち着いてから、ハルヒは俺に色々質問をしてきた。 本当のことを言うわけにも行かず、かといって答えを用意していない俺は、四苦八苦しながらそれに答えていた。 ハルヒが階段から落ちたいう話はハルヒの家族にしてあるので、今更変える訳にはいかない。 俺はその線でごり押しした。 裏山探検隊もUFOもどきの隕石も全部夢オチだ。 1週間も寝てたんだから、それもアリだろ。 1年前の俺だって、階段から落ちた記憶がないことになってるからな。 実際に階段から落ちたりしていないんだが。 「あんたの二の舞を演じるとは、一生の不覚だわ」 ハルヒが顔をしかめて言った。 「だけど、あれが夢だとは思えないのよ。あんたと隕石を探しに行ったのは」 そりゃ、ほんとにあったことだからな。しかし── 「俺はそんなことしとらん!」 言い張るしかない。泥で汚れた制服も何とか綺麗にしたしな。 「第一そんな大ニュース、新聞もテレビも放っておく訳がないだろう。 なのにどこも報道してないんだぜ」 そう、実際、俺たち以外誰もあの隕石に気付いていないようなのだ。 これは後で長門に聞いてみよう。何となく答えはわかっているのだが。 ハルヒは渋々納得したようだった。 「ずっと夢を見ていたみたいね。やけに覚えてるけど」 ハルヒは残念そうに呟いた。 「長い夢だったわ──途中から悪夢よ。凄く苦しくて」 うんざりした表情で続ける。 そうだっただろうな。あれだけ閉鎖空間を生み出したくらいの苦しみだ。 「でも最後にキョンが出てきて──そうだ、キョン!」 急に生き生きとした顔になって、俺を見た。 「あんた、あたしに言うことがあるでしょ!」 やっぱり覚えてやがったな。当たり前か。 いや、別に俺も逃げるつもりはないんだが、いざとなるとやっぱり照れくさい。 ここまで来て何て言い訳しようかとチラッと考えた俺は、やっぱりへたれなんだろう。 「ああ、あるさ」 意を決して俺は言った。でも素直には言ってやらない。 「でも、何でお前がそれを知ってるんだ?」 「だって、あんた夢の中で言ったじゃない」 「お前の夢の中のことまで俺は知らん」 そう言うと、ハルヒは暗い表情になった。 しまった、ちょっと意地悪だったか。 「夢の中の俺が何を言ったかは知らんがな、俺は俺で前から言いたかったことがあるんだ」 悪い。心の中で謝りながら俺は続けた。 「ハルヒ、俺はお前が好──」 言いかけたとき、ドアがノックされた。誰だよ! 間の悪い! ハルヒもアヒル口になっている。 ドアが開いて入ってきたのは、朝比奈さんと長門だった。 「みくるちゃん! 有希!」ハルヒが笑顔で声をかけた。 「す、す、涼宮さぁぁぁぁぁん!!!!」 ハルヒが起きているのを見ると、朝比奈さんはハルヒに駆け寄って抱きつき、泣き出してしまった。 「バカね、みくるちゃん。あたしは大丈夫に決まってるでしょ!」 そう言いながら朝比奈さんを撫でているハルヒは嬉しそうだった。 ほんとにどっちが年上なんだかわからないね。 「長門、もう大丈夫なのか」 傍らにたたずんでいる長門に声をかける。 「大丈夫」 一言だけ返した長門は、ハルヒと朝比奈さんを見つめていた。 どこか眩しげに見えたのは、気のせいではないだろう。 やがて医者が来て、ハルヒは診察を受けることになり、診察室へと連れて行かれた。 結局俺は自分の思いを伝えられずにいる。 『あたしをこれ以上待たせるんじゃないわよ!』 閉鎖空間でのハルヒの言葉を思い出し、苦笑した。 やれやれ、このままじゃ罰金かな。 しばらくすると古泉が現れた。機関への報告とやらは終わったらしい。 「機関の人間は、総じてあなたに感謝しています」 ここのところ忘れていたようなニヤニヤ顔で俺に言ってきた。 「結局、機関に取っても最良の結果が得られました。あなたに判断を委ねたのは正解だったようです」 「勘弁してくれ」 俺は顔をしかめた。俺にとっては世界も機関もどうでも良かったんだよ。 ただ、ハルヒを助けたかっただけだ。 いや、助けるなんて気持ちより、俺がハルヒに会いたかっただけだ。 「自分の意志で動いたのに機関の思惑に乗ったと思うと面白くねーよ」 世界の行く末を俺1人に押しつけやがって。 どうにかなっちまったら俺に責任をなすりつけるつもりだったのか? 「まさか、そこまであなたに押しつけるつもりはありませんでした。 あなたに委ねると判断した時点で、機関にも大きな責任があります」 結果論では何とでも言えるよな。まあ、今回は機関にもお前にも大いに助けられたから不問としてやるよ。 「ともあれ、結局涼宮さんを根本から何とかできるのはあなただけなんです。 今回も、涼宮さんの力を自覚させることなく発揮させることに成功した。 あなたの他に誰も、そんなことができる人間はいません」 ああ、脳の容量いっぱいまで使って考えたぜ。『ジョン・スミス』以外でハルヒに力を使わせるなんてな。 正直もうゴメンだ。今後、シナリオライターはお前に任せる。 「承知しました」 そう言う古泉は、最後まで0円スマイルを顔に貼り付けたままだった。 いつもの古泉に戻ったな。 「ほんとに良かったです……」 朝比奈さんにも笑顔が戻った。 「でも、わたし、結局何もできなかった……」 少し俯いて溜息をつく。そんなお姿も絵になるお人だ。 俺は朝比奈さん(大)の言葉をまた思い出した。 『この時間のわたしにできることはないの』 俺はこの朝比奈さんに何も言わなかったのか? 言わずにはいれないじゃないか。 今度朝比奈さん(大)に会ったら絶対に聞いてやる。 覚えてないなんて言われたら結構ショックだぞ。 「何を言ってるんですか、今回の一番の敢闘賞は朝比奈さんですよ!」 俺は言った。殊勲賞でもいいくらいだ。いや、殊勲賞は長門か? 「ほえ?」 驚いた顔して俺を見る朝比奈さんに、俺は続けた。 「今朝、俺が橘に色々言われて気持ちが揺らいでいたのはわかってるんでしょう。 あのとき朝比奈さんがああ言ってくれなかったら、俺は橘の戯言に乗ったかもしれない」 絶望的な気分だったからな。橘にすらすがりたいくらいに。 そう、朝比奈さんの言葉と橘の表情。 それが、俺を正気に戻してくれた。 そう考えると、橘にも技能賞をやってもいいのかね。ちょっと賞なんて惜しい気もするが。 俺が与える資格もない三賞を誰にやるか考えを巡らせていると、それまで黙っていた長門が言った。 「わたしもあなたに助けられた。礼を言いたい。ありがとう」 朝比奈さんをじっと見つめている。 「差し入れ、美味しかった」 朝比奈さんは何故か頬を染めて俯いた。まだ長門に苦手意識があるのか、他の理由かはわからない。 しかし、何か勘違いしそうなシーンだな。 「何もできなかったのは私」 長門は続けて言った。相変わらずの無表情だが、俺には悔しそうに見えた。 「必要なときに機能停止。不覚」 「お前のせいじゃないさ」 俺は本心から言った。このSOS団一の万能選手は、いつも1人で解決しようとするからな。 「そもそも、今回はお前がいなきゃ何が起こったのかすらわからなかったんだぜ」 あの、隕石に触れたハルヒが倒れたとき、瞬時に来てくれた長門をどれだけ頼もしく思ったか。 「その後も、24時間ハルヒについていたのは長門だけだ。 ハルヒだって一番感謝してるさ」 好きなはずの本も読まず、必要がないとはいえ睡眠も取らずにハルヒのそばにいたんだ。 他の誰にもできることじゃないだろ。 「……ありがとう」 長門はそう呟いた。 「今回の黒幕は、やっぱり例の……天蓋領域だっけか? あいつなのか?」 「そう」 今回の騒動を説明してくれた長門のややこしい言葉を俺の頭でわかる範囲で言うとこうだ。 どうやらハルヒの能力を佐々木に移すことが目的だったらしい。 それが橘の機関と協力したのか、独自に考えたのかはわからない。 橘の機関は天蓋領域の決定を受けて独自に動いた可能性もある。 ところが、何故かハルヒの能力を佐々木に移すには、俺の協力が必要らしい。 俺が素直にうんと言うわけもないので、一計を案じたと言うことだ。 あの隕石が俺たち以外に発見されなかったのも無理もない。 最初からそう情報操作されていた。 「近くに周防九曜がいたはず」 長門は言ったが、俺は見た覚えがない。 何で佐々木に能力を移そうと思ったのかは情報統合思念体にもはっきりとはわからないらしい。 「推測はできる」 要は佐々木なら意識的に能力を発揮できるようになるということだ。 佐々木に力を移した上で協力してもらうつもりなのではないか、長門はそんな感じのことを言った。 そもそも天蓋領域がハルヒに目をつけた理由が、情報統合思念体と同じとは限らないそうだからややこしい。 俺なんかには理解できるわけもない世界だ。 「そう言えば周防は結局何をしていたんだ?」 機関の目を逃れるのは簡単だろうが、それにしても最初から最後まで現れなかったが。 「機関を始めとする対抗勢力の妨害。それと、照準」 妨害はわかるんだが、照準てなんだよ? 全く意味がわからん。 また長門はよくわからない用語で説明してくれた。 情報統合思念体のような存在は、地球上の一個人や一インターフェースをいちいち把握できないそうだ。 把握できるなら、ハルヒを監視するための長門のようなインターフェースも要らないと言うことになる。 だが、今回、長門たちの機能を止めたのは、周防ではなく天蓋領域そのものだった。 天蓋領域にインターフェースの存在場所などを特定させるために、周防は暗躍していたらしい。 まさに『照準』だ。 情報統合思念体もこの動きを察知していたそうだが、止められなかったらしい。 「概念が理解不能のとき、止める側より行動する側の方が有利」 何しようとするかわからないから、後手に回る。 まさに今回の事件そのものだ。 しかし、今回の事件が起こっている間、広い宇宙で激しい宇宙戦争が行われていたのか。 なんてこったい。 あまりにも壮大すぎて想像もつかないぜ。 しばらく宇宙情報戦争について思いめぐらせていたが、もう一つの疑問を思い出して聞いてみた。 「何でハルヒは直ぐに目覚めなかったんだ?」 長門の予告通りなら、どっちにしても13時前後には目が覚めたはずなんだが。 「精神負荷が大きすぎたためと思われる」 どういうことだ? 「1週間、涼宮ハルヒの精神は休まることはなかった。休息が必要」 ってことは? 「彼女は睡眠中だった」 そういうオチかいっ! どれだけ心配したと思ってるんだよ! ……て、まさか起きたとき俺がしたことに気付いてないだろうな。 「それではそろそろ失礼します」 古泉が言った。 おい、お前はまだハルヒに会ってないだろう。 「明日会えますよ。それより、あなたがしなくてはならないことがあるでしょう。 お邪魔はしたくないのでね」 そう言えばお前は閉鎖空間でどこにいて、どこまで聞いてたんだ? 「さて、どうでしたっけ」 とぼけるんじゃねぇぞ。 俺の問いかけもむなしく、にこやかに手を振って出て行きやがった。 後で覚えてろよ。 「わたしも帰りますね」 朝比奈さんも言った。 「がんばってくださいね、キョンくん」 何を頑張れというんですか、朝比奈さん。というか、あなたは何をご存じなんですか。 聞こうと思ったが怖くて聞けなかった。 朝比奈さん(大)ならともかく、何も知らないはずなんじゃ? 「見ていればわかる」 長門、お前もモノローグを読むな。いや、お前なら普通に読みそうだが。 「邪魔者は退散」 長門と朝比奈さんは連れだって部屋を出て行こうとした。 「おい、邪魔者って何だよ!」 俺の問いには答えず、長門は振り返ると言った。 「ごゆっくり」 何かまた性格変わってないか? 長門。 宇宙人と未来人は何だかんだ言って仲良くなっている気がする。 その割には、朝比奈さん(大)になっても長門が苦手なようだ。 これからまだ何かあるのかね。 「やれやれ」 呟いて、そばにあった椅子を引き寄せた。 ここで俺まで帰る訳にいかないよな。 ハルヒが怒りを通り越してまた不安になりかねない。 「疲れたな」 まったく。 朝から橘に悩まされ機関の本部に行き、閉鎖空間で自由落下しかけ、空中浮遊まで体験した。 いくらハルヒに振り回されるのに慣れた俺だって、さすがにキツイぜ。 さて、これからどうするか。 古泉に言われなくてもやり残したことがあるのはわかってる。 さっき朝比奈さんと長門に邪魔されたからな。 このまま誤魔化してしまうことは、ハルヒが許さないだろう。いや、俺が俺を許せなくなるね。 しかし、さっきより照れくさいぞ。 さっきだって恥ずかしさを乗り越えて勢いで言おうとして邪魔されたんだ、それをもう一度やらなきゃいかんのか。 「ハルヒが好きだ」 うわ、試しにとはいえ、あらためて口に出してみるとすげぇ恥ずかしい。 いっそ閉鎖空間で言っちまうべきだったか。 あのときはハイテンションだったからな。勢いで言えただろう。 そのとき──『お約束』と言えばいいのだろうが──ドアが開いた。 やけに静かに開いたので、長門辺りが戻ってきたのかと思ったが、やはりというか何というか、とにかくハルヒだった。 えーと、何でそんな真っ赤になってるんだよ。何て聞くまでもないな。 間違いない。聞こえてやがった。 「あんたねぇ……」 赤い顔をして、俺から視線を外したまま入ってきたハルヒは、そのまま文句を言い始めた。 「何誰もいないところで恥ずかしいこと言ってんのよ」 誰もいないから言ったんだよ。とは言えないが。 それより俺の告白は恥ずかしいことかよ。ああ、恥ずかしいよな。てか恥ずかしい。 「悪かったな」 もうそれしか言えん。 「だいたい、そういうことは本人に面と向かって言いなさいよ……」 何だかいつもの勢いがないが、それより面と向かってと言っているハルヒが顔を背けているんだが。 「そいつはすまんかった。だったらお前もこっち向け」 どうせさっき言いかけたんだ。今も独り言を聞かれちまった。今度こそ、ちゃんと言えるだろう。 だが、ハルヒは相変わらず顔を背けたままだ。 何か腹立ってきた。人に覚悟を決めさせておいてなんだそれは。 俺は両手でハルヒの顔を無理矢理俺の方に向かせた。 「ちょっと、何すん……!!!」 ハルヒは抗議の声を上げたが、俺は無視して唇をふさいだ。 「……好きだ」 唇をわずかに離して一言伝えると、再び唇を重ねる。 ハルヒは俺にしがみついてきた。 何だ、簡単なことだったんじゃないか。 今まで俺は何をしていたんだろうね。 誤魔化してきた気持ちが、一気に湧き上がってくる。 ──長いこと待たせて悪かったな。 不安にさせて悪かったな。 罰金、払うからな。 だから、もう離さないでいいか。 もう、離れないでいてくれるか。 やがて唇を離した俺に、ハルヒは微笑んで言ってくれた。 「あたしもあんたが好きよ、キョン……」 ──こうして、俺の長い長い1週間は、ようやく終わりを告げた。 エピローグへ
https://w.atwiki.jp/retrogamewiki/pages/8545.html
今日 - 合計 - アンジェリークスペシャルプレミアムBOXの攻略ページ 目次 基本情報 [部分編集] ストーリー [部分編集] 攻略情報 [部分編集] Tips [部分編集] プチ情報 [部分編集] 関連動画 [部分編集] 参考文献、参考サイト [部分編集] 感想・レビュー 基本情報 [部分編集] ストーリー [部分編集] 攻略情報 [部分編集] Tips [部分編集] プチ情報 [部分編集] 関連動画 [部分編集] 参考文献、参考サイト [部分編集] 感想・レビュー 名前 コメント 選択肢 投票 役に立った (0) 2012年10月09日 (火) 16時58分12秒 [部分編集] ページごとのメニューの編集はこちらの部分編集から行ってください [部分編集] 編集に関して
https://w.atwiki.jp/batorowa-genjo/pages/868.html
ハルヒ プロフィール 称号